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名盤リワインド㉜ グリーンスリーブス(ハープの世界)/スーザン・マクドナルド

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泣く子も黙るマクドナルド女史の一枚。彼女のなにが凄いのか。それは、ハープ界の仕組みや組織を体系化したことだろう。USA国際ハープ・コンペは、ハープ界の重賞であり、トップ・ハーピストの登龍門であり、最高の栄誉である。このコンペ、どこで行われるかご存知だろうか。NY?LA?シカゴ?いやいや、イリノイの地方都市ブルーミントンなのである。しかも、イリノイ大学構内でやるのだ。ジュリアードでもなく、カーティス音楽院でも、バークリー音大でもない。なぜなら、そこにスーザン・マクドナルドがいるから。彼女が監督し、組織するハープ学科は世界最大規模を誇り、イリノイには世界から優秀なハープ学生が多く集まるから、必然的にそこが会場となり、コンペの運営においても彼女のコントロールによって行われる。城下町的に、ハープ関連ビジネスもイリノイに集まる。元から同じイリノイ州シカゴにあった、ライオン&ヒーリーも便乗する。まさに、マクドナルド経済圏と呼んで差し支えない。こうしたシステムを、一人で築き上げたゆえに彼女は偉人なのである。今は一線から身を引いたとはいえ、会長として隠然たる影響力がある。自身が卓越した達人ハーピストであると同時に、ルニエとラスキーヌの直弟子であり、そのレガシーを伝える教師としても超一流であったからこそ、マクドナルドはその地位を不動のものとした。国際コンペの最高峰のひとつ、イスラエル国際コンペの第一回目の優勝者でもあり、吉野直子も幼少の時代から彼女に学んだことなど、その歴史上の実績は枚挙に暇がない。そんな彼女だったら、単独アーティストとしては、いったいどんなアルバムを作るだろうか。それが、本稿のお題だ。

極めて、アメリカ的なアルバムというのが感想だ。そして、「ハープの首都は、ここなのよ」という自信が漲っている。テーマを敢えて固定せず、様々な曲想を散りばめている。これは豪華絢爛としか形容できない。アメリカ的と称したのは、人種のるつぼであり、多くの文化が去来するアメリカで、ハープが社会学習をし、色々な音楽バリエーションを吸収した課程が、そのままマクドナルドに憑依し、ハープを通じてた多様性の語り部と化しているかのような内容だから。いわゆるハープ曲あり、ジャズあり、民謡ありであり、「世界のハープ」の原題に恥じぬ演奏を収めており、その中心円に彼女が居るという感じなのだ。立場上、あまり偏った選曲はできないのかも知れないが、そう考えると、選曲は総花的でありながら、そのどれもが選りすぐりというのは、恐らく彼女しかできない業なのではないか。たぶん、彼女はすでに何をやっても許される領域にいる前提で、偏向的でもよいから彼女の本音を封じ込めたようなアルバムを聴いてみたい。

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