理屈では分かっているものの、ハープは本当にピアノで弾けるものは演奏できるのだろうかと思う。理論的には可能だと云われてはいるが、問題は音楽として成立するように弾けるのかということだ。可能にさせる要素は二つある。第一に編曲。第二に奏法。つまり、いずれもハープで弾ける編曲が施されていて、ハープならではの奏法で弾けることが条件になる。フランス近代の発展と人気は、まさにアッセルマン以降、脈々と続けられてきたハープ譜の作成から始まっている。そして、その伝統は現在のハーピストたちにも受け継がれている。
ドイツを中心に活躍する新進気鋭のハープ奏者ヘレーネ・シュッツのアルバムは、そんな疑問に対して明快に答えてくれる。J.S.バッハ、スカルラッティ、ドビュッシー、リスト、ラモーといった、ピアノ・ソロのレパートリーにその名を連ねる作曲家たちの作品から、ハープ化できそうなスコアを蒐集し、ハーピストならではのアプローチを施し、実に聴き易いソロハープ・アルバムに仕上げている。タッチのソフトさ、ウォームで肌理の細かい音色は、ピアノの粒立ちとリズミカルな鍵盤音とは違った魅力を編み出し、これほどまでにハープと相性がいい曲だったかと、再度聴き返してしまうテイクもあるほどだ。同時に幾つかの曲では、「むしろハープのほうが、良いのでは?」と思えるものさえある。表題の「SAITENWECHSEL」とは、弦の張り替えを意味する。そう、新たな境地に歩み出たシュッツらしい、タイトルだと思う。