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名盤リワインド⑱ ソロ・ハープ~ベスト・オブ・ヨランダ・コンドナシス

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アルバム制作はプロジェクトであり、毎回違ったコンセプトの下、曲が練られている。だから、いわゆるベスト盤はそれらの名場面を寄せ集めたパッチワークであり、本来ならばそのベスト盤を名盤として推奨するのは邪道である。したがって、今回は番外編といえるかもしれない。しかし、ヨランダ・コンドナシスの素晴らしさを伝えるにあたって、どのアルバムを選ぶかを悩むかよりも、今まで彼女が様々な局面で華麗に変身を遂げてきた様を、いわば万華鏡のように散りばめた本作を紹介する方が早いと判断した。実際に個人的には、彼女に関してはこのベスト盤を最も聴いているのだから。

本作推奨のもうひとつの理由は、ヨランダの日本における知名度である。過小評価というより、知名度がない。ハープ斯界のヨーロッパ志向の弊害で、15枚以上アルバムを制作し、10万枚売り上げたアメリカのトップであり、指導書もベストセラーになる20年選手のハーピストだが、日本では識者ですら知らない人がいる。玄人好みということも一因かも知れない。的確かつ派手さのない、しかしテクニックに裏打ちされた演奏技術は、とりわけオーケストラなどの場面で重宝される。だからむしろ、このアルバムが出た時、飛びついたファンも少なからずいたと思う。つまり、彼女のソロの名場面が蒐集されているからなのだ。ベスト盤でありながら、ソロ集であり、スタンダードな曲が揃っているのである。アッセルマン:泉、グランジャニー:ラプソディ、一番多いのはサルツェードでボレロやルンバを展開する。アメリカらしくガーシュインが入っているのも魅力。他に、ピエルネ、バッハ、サティ、サン=サーンスまで。ハープ弾きであれば、これぞ大ネタといえるセレクションが詰め込まれている。そして重要なのは、選曲のどれもがヨランダの本質を突いたものとは言い難いが、有無を言わせない達観した捌き方と、輝かんばかりの演奏の質感に、ハープ偏差値の高さを強烈に印象付けられてしまうところだ。つまり、名曲集というよりは名演集の趣が強い。本コラムシリーズの番外編と必ずしも言えない理由でもあるのだ。

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