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名盤リワインド⑧ シューベルト:ハープによる即興曲全集 D.899 & D.935 / マルギット=アナ・シュス

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エリック・サティや武満徹を弾き、現代音楽のピアニストである高橋アキが、今から10年前にシューベルト集を出したときは、椅子からずり落ちた。ファンへの裏切りかとも考えたが、聴いてみたら不思議と心が安らいだ。学生時代、得意だったという記述にもっと驚いた。現代音楽という不協和音や葛藤と不可分な音楽領域と、シューベルトはどうしても結びつかない。ある時、ハープ斯界では屈指のシューベルト弾きのイオン・ジョーンズが語ってくれたことで、どこか腑に落ちた自分がいた。彼によれば、「中庸の魅力に気付け」とのことだった。彼はずっと教鞭を執ってゆく過程で、派手さとは無縁だが、シューベルトの和声進行のシンプルな美しさに気付いた。演じ手によって曲の芯たる美しさが根本的に変わるわけではないが、逆に言えば、実力やカラーはハッキリ出てしまう。自信家ならまだしも、曲に弾かされてしまうか、大胆にも自分カラーのシューベルトをものにできるかのいずれかだろう。多くの場合、それが分かっていて敢えて博打に打って出ようとは思うまい。かくしてハープ・シーンでシューベルトを聴く機会は、かなり少なくなっているのではないかと思うのだ。

ここに見本がある、とまでは言わないが、マルギット=アナ・シュスのシューベルトの即興集を聴くと、彼女のハーピストとしての資質、信条が不思議と良く伝わる。彼女が意図してシューベルトという題材を選んだというよりは、同郷の偉人で慣れ親しんだシューベルトを存分に弾くことで会心のハープ・ソロのアルバムに仕立てるくらいの気持ちで臨んだものと思われる。だから奇をてらうことなく、正直なシューベルトを弾いた。ところが、結果としてそれがアナ=シュスの自分のシューベルト、イコール大胆不敵なシューベルトに仕上がったのではないか。それでも、うるさ型の評論筋からすれば、「まだシューベルトの掌中で転がされている」とみる向きもあるだろうが、現行ではこのアルバムがハープ版シューベルトの高い頂にいることの否定には繋がらない。不思議な光を放つ好盤と言える。

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