クリスマス・ファンタジー/中村愛
日本の場合、一年の計は元旦にある。欧米の場合はクリスマスだ。
家族が一堂に会し、いまの幸せに感謝して、来年も良き日々が続くよう祈る、そんなひとときでもある。想いを共有するためにもクリスマスにはBGMが付き物であり、古来よりクリスマス・キャロルは代々歌い継がれてきた。それらの代表曲をほぼほぼ網羅したくらいの勢いで、「えーい」とばかりに25曲詰め込んだのが、中村愛のクリスマスCDである。
ハープのシンプルにして麗美な調べが、そもそも賛美歌の流れを汲むキャロルにフィットしているのだが、ソロでそれらを弾き切り、サルツェードやスーザン・マクドナルドなどのハープ・マスターの編曲を選んで収録したところが、このアルバムの手柄でもある。ちょうど1時間くらいの収録時間は、ディナーや家族の寛ぎにはジャストな尺であり、ハープの活かし方の最適なテキストになると同時に、実に贅沢で豊かな想像を喚起させられる。
本編にも収録されている「ザ・クリスマス・ソング」を作曲した故メル・トーメに会って話を聞いたことがある。この曲が大好きで、どんな経緯でジャズのクルーナー派のトーメが作ることになったのかを。アルバムに収録するため、夏の暑い盛りに単にクールな曲を書こうとしているうち、ふとクリスマスを思い出し、途中で方向転換して走馬灯のように巡る思い出をそのままピアノに乗せて歌ったら、30分足らずでヘッドラインを書き上げてしまったのがあの曲だという。
「シンプルに、さりげなく、けれども情熱をこめて」歌うのがコツだと語っていた。ベルベットの霧と謳われたあの美声はもう生では聴けないが、中村愛のハープの音色には、トーメが語ったクリスマス・ソングの歌い方が、ハープによって引き継がれているようだ。ボリューム、内容共にハープによるクリスマス・アルバムの決定版と呼んで差支えないと思う。
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