サーシャ・ボルダチョフ×中村愛 スペシャル・トーク
日本とロシアの人気ハーピスト同士が、ついに初トーク・セッション。今回は、中村愛さんからハーピストならではの突っ込んだ質問を、来日したサーシャにぶつけてもらいました。
なぜ、サルヴィ・ハープを使うのか
中村 確かサーシャは、イリスを使っていたのよね?
サーシャ そう、昨年のコンサートではね。今回は、十字屋の協力でミネルヴァを使っている。あとスイスの自宅ではアポロ、地元のモスクワではミネルヴァをいつも使っている。
中村 私と同じね。私もアポロとミネルヴァを使っているの。サーシャが考えるサルヴィ・ハープの魅力って何かしら。
サーシャ 一言でいうと「開発力」かな。小さいからレバー(ハープ)ということではなく、ロシアでは5才くらいからもうグランドハープを弾き始めていた。15歳からオーケストラで演奏し始めていたけど、当時は正直言ってハープに質なんて求めてなかったんだよ。体に合えばいいって言う程度でさ(笑)。だが、演奏でイタリアに出向くようになって、サルヴィ社のヴィクトール・サルヴィに会うようになり、それで考えが変わった。
中村 創業者の方ね。
サーシャ 彼は、ハープについて常に何か行動を起こしているんだよ。単にハープを良くしようという気持ちかな。毎回会うたびに、「今度はここを改良した」「ここをもっと動かしやすくした」とかね。技術者として彼が立ち止まらない姿勢に、子供ながらもわくわくした。ここ最近の5年間の進歩なんて凄いでしょう?ハーピストのニーズに寄り添って、ドンドン良くなっている。新しい響板とか、デザインの大胆な変革だとか、メカニックの一新とか・・・彼らの今までの試みの成果が、いま一気に形になって来たって感じがするんだ。
中村 それぞれのモデルにも個性があるというか・・・
サーシャ そうなんだよ。たとえば、ミネルヴァはコンサートの際のソロで演奏するのに向いている。イリスは、競演者がいる時や、オーケストラとやるときには頼りになる。最新のヴィクトリアは、工法もクラシックなので、昔ながらの室内楽とか、あと知り合いに自慢するときに向いている・・・はは、冗談だけどね。高額だからいいってことではなくて、モデルごとに特長を持たせているんだな。どこか刷新している。そこが信頼できるんだよ。
中村 楽器にそれぞれの方向性があるのよね。
サーシャ ドイツのホルンガッハは、重厚な感じはするんだけど、重たくて意外と小さく、ステージ映えしない(笑)。フランスのカマックは、ハイポジション部分が狭すぎて、高い音を出すときに苦労する。ピアノのように、スタインウェイだ、ベーゼンドルファーだ、ヤマハだと、メーカーが持っている個性や特長が、最近はハープの世界でもサルヴィの出現によって、徐々にはっきりしてきたという感じがしているよ。
{2017年9月 銀座十字屋にて、続く}