銀座十字屋で取り扱うCDの中から、スタッフが実際に聴いてみて、みなさまにおすすめしたいCDをレビュー形式でご紹介します。CDレビューの一覧はこちら
Authentic Harp / 近石瑠璃
ロドリーゴが遺した「アランフェス協奏曲」は、今ではギタリストの通過儀礼となっているが、ロドリーゴ自身はギターを持ったことすらないという。だがスペイン人の血が滾り、ギターへの愛が募るロドリーゴは、結果として同曲を書き上げ、ギター協奏曲の嚆矢となった。つまり、溢れ出る音楽への愛着が世の人の心を打ったのだろう。まして、自分が愛する楽器を使って作曲され、それを自分の愛用する楽器で演奏するのは、どれだけ素晴らしく、愛おしいものか。本作には、近石の恐らく愛して止まないハープへのオマージュが詰まった作品集だと思う。
タイトルにもなっているオーセンティックという言葉は、ハープを誇りに思う者しか怖くて付けられない。本物、正統という意味であることをアルバムには記しているが、ともすれば権威的という排他的な意味にも繋がる言葉だから。しかし、アルバムを聴き進めると、彼女がやろうとしているのはそれと真逆であり、むしろ「ハープ奏者の間でしか聴かれていないのは勿体ない、この美しい調べを皆さんとシェアしたい」という意思が伝わってくる。言わずもがなのアッセルマンの「泉」やサルツェードの「古代様式の主題による変奏曲」、そしてグランジャニー「ラプソディ」などは、コンクールや演奏会ではハーピスト垂涎の曲。ご存知のとおりトゥルニエの「朝に」などは、演奏会用練習曲と別題まで付いている。近石の仕事とは、研鑽と研究、そして何よりありったけの愛をもってこれらの作品を弾くことで、ハープが、そしてハーピストたちの曲が、いかに風雪に耐える普遍性と絶対美を秘めているかを世に問うことであり、実はそれこそが「本質」だったのではないか。あなたがハーピストでなくとも、彼女の思い入れがヒシヒシと伝わる快作である。
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