銀座十字屋で取り扱うCDの中から、スタッフが実際に聴いてみて、みなさまにおすすめしたいCDをレビュー形式でご紹介します。CDレビューの一覧はこちら
ビリティスの歌 / 野勢善樹(Fl.) 長谷川朋子(Hp.) 大野かおる(Va.)
今年はドビュッシーの没後100年ということで、ドビュッシー含有率が高い本作をピックアップした。フォーレ、ラベル、フランセと、全てフランスの作曲家を選び、主人公の野勢のフルート+長谷川朋子のハープ、時にヴィオラ(大野かおる)を加えた編成で、20世紀前後のまさにクラシックにおけるフランス勢のエポック・メイキングな時代の息吹を、実直かつ精緻な構成で再現、演奏陣はまるで叙事詩の語り部のように、音による物語の綴れ織りを細やかに紐解いてゆく。総体的には、非常に好印象なアルバムである。
十年ひと昔というが、さすが百年経つと、当時は奇異な印象のものでも、芳醇な気品を湛え、まろやかに熟成した楽曲になるのかと、本作を聴いて感服する。裏を返せば革新者の音楽というのは、それは普遍的になるまでに時間がかかるということだ。ドビュッシーが朗読伴奏用に作曲した「ビリティスの歌」から「月の光」が、当時さほど人気がなかったというのもにわかに信じがたい。こうしていわばスケルトン状態にして、核心を露わにする演奏から、素晴らしさを再確認することもあるのだ。もっとも意趣返しで他の分野における転用や模倣を経て、凄さの中核を知る場合もある。たとえば、ジャズの帝王マイルス・デイヴィスの「ソー・ホワット」はジャズ史上最も売れた曲だが、ドビュッシー前奏曲集第一巻「ヴェール」が元ネタだ。ジャズの革命と言われたビ・バップの誕生も、既成和声の進行を否定したドビュッシーの影響なしには生れなかったし、70年代のプログレシップ・ロックも、やはり彼の影響からは免れない。本当はかなりやんちゃな音楽なのに、本作を聴いていると、ずっと昔からあった古謡のような響きを伴って、本質を突いてくる。演奏者たちがかなり弾きこんでいる証左だ。
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