サーシャ・ボルダチョフ×中村愛 スペシャル・トーク
日本とロシアの人気ハーピスト同士が、ついに初トーク・セッション。今回は、中村愛さんからハーピストならではの突っ込んだ質問を、来日したサーシャにぶつけてもらいました。
練習に有効な曲はあるのだろうか?
中村 今までサーシャが練習してきた中で、初心者が練習するのに有効な曲はあるかしら。
サーシャ 手前味噌でごめんね、実は「ステップ・バイ・ステップ」ってアルバムを前に制作したことがあって。僕が全て作曲したもので、最初の曲は6歳の時に書いた曲、次に8歳の時に書いた曲、その翌年に書いた曲という感じで、大人になるまで書き溜めたのだけど、いま聴くと実にユニークだよ。その歳でしかやれないことと、限界を超えようとすると懸命になっていたことが分かって。その頃は、豊富に楽譜が手に入ったわけではなかったから、先生から難しい課題を与えられて、それを克服するための練習をしていた。課題テクニックの習得のために、そういう要素が入った曲やスケールを自分で作っていた。ともかく、僕が言いたいことは、どの練習にも目的があって、それを段階的にやってゆくことが必要だということなのさ。
中村 無論、(サーシャのように)全員ができることではないと思うけど・・・
サーシャ でも、無駄な練習ならしないほうがいい。初心者の頃ならば、興味のある曲を弾くようにするのがベストだと思う。ポップスでもいいよ。でも、感情のこもらないスケール練習だけをダラダラとやるのは、感心しない。もちろん、黙々と指使いやスケールを練習する段階も必要な時が来る。曲を追いかけてゆくと楽しいけれど、自然と難しくて弾けない箇所がでてくるし、技術の壁を克服するには、できない箇所の反復練習しかないのだから。それでも、最初の段階では肝心の音楽への興味が持続することがまずは重要なので。僕は、(ニコラ=シャルル)ボクサの練習曲をかなりやったよ。数百はあるはずだ(笑)。対応力が身に着くようになるよ。ボクサは、後にオペラの曲を描くようになる人だけど・・・
中村 オペラの曲がいいの?
サーシャ 練習は誰にとっても、パーソナルなものだ。ケース・バイ・ケースだね。でもオペラ曲の練習は、テクニックの習得にも役に立つし、練習しながら歌心が付くからね。
中村 いい練習曲に出会うというのも大切なのね。
サーシャ 僕の先生の一人だったカトリーヌ・ミシェルがいい仕事しているよ。どこかに彼女のライブラリーが公開されているのではないかな?あのミシェル・ルグランの元奥さんで、ハープ曲のレパートリーを長年発掘してきている方だ。いつか見たリストのうち、半分以上は「こんな曲もハープ曲になっているのか」という驚きに満ちたものだった。手元にある教則本のなかだけが、ハープの世界ではないということは忘れてほしくないね。
中村 OK。まだまだ、いいハープの曲がたくさんありそうね。
{2017年9月 銀座十字屋にて、続く}