時代は、確実に変化しつつある。つい最近までグローバリズムなどという言葉がはやっていたけれども、今や「断絶」の時代である。唯一音楽界だけは、ユニバーサル・ランゲージとして、音楽の潮流を共有している。ただ、依然、日本のハープ・シーンは19世紀のフランス近代のハープ音楽が好きであり、どうやらそこで意識は止まっているようにみえる。実際は、クラシックの世界の時間軸は、世間と比べたらスローなので、時代と並走する流行を追っているわけではない。それでも、もう20世紀の音楽がいまや世界で息づいていることは間違いない。
アナエル・トゥエの名は、日本ではさほど伝播されているわけではないが、かなりの実力者である。第19回イスラエル国際コンクールの覇者であり、実はメストレの助手として活動してきた。そんな彼女が、ミニマルで、最も象徴的な形で、ハープ界の展望を提起してみせた。アンドレ・カプレ、パウル・ヒンデミット、ベンジャミン・ブリテン、ハインツ・ホリガーを取り上げ、今後のハープ界で「こういう音楽が主軸に加わってくる」と主張しているのだ。大胆かつ潔い。トゥエは、フランス人だ。しかし、自国が築いてきた音楽に憐憫さを装うこともなく、否定するわけでもなく、ハープ音楽の今を切り取っている。だからこそ、余計にその主張には説得力がある。選んだ4人の作家とその作品が、20世紀に生まれたハープの曲へ、いかに技術と革新を与えたかを、直接的かつ実直にその理由を音によって開闢している。とりわけホリガ-の解釈は出色の出来で、なるほどこうした作家群のピースは、ハーピストたちが今後「超えなければならない作品たち」であることは間違いないだろう。