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ディスクレビュー:ハープ・ソロ/アナイス・ゴドゥマール

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フランス近代の人気と隆盛を謳っておきながら、この人をお薦めしないわけにはいくまい。アナイス・ゴドゥマールである。今年来日公演があって、改めてその存在感を印象付けられた。2012年のイスラエル国際ハープ・コンクールの勝者でもあり、その逸材ぶりを当時から世界中で喧伝されてきた。それにも関わらず、「見逃した」のはなぜかと考えたら、思い当たる節があった。それは、彼女の「能動的モラトリアム」とも表現できる行動である。

昨今のハープ界における成功とは、単独/名義コンサートの多寡やソロ演奏での活動に収斂(しゅうれん)されているような気がする。コンクールで優勝し、ソロ演奏でお呼びがかかるようになる。評判がよければ、それが世界へ広がってますます独奏が増える。共演やオーケストラでの演奏は、ハープという楽器の融通性のなさから、オケピの後ろに座らされたり、ハープ中心のスコアが元から少ないから、どうしても演奏の機会も限られたものになったりしがちになる。だが、その一方で、本来なら色々なタイプの演奏形態や他楽器とのコラボレーション、佳曲のハープ楽譜への編曲、経験を重ねることでのネットワークの醸成に費やすべき時間を、若手のトップ・ハーピストたちはソロ演奏にほとんど捧げてしまう。だから、確かに驚くべきテクニックや輝かしいソロ演奏には、純粋培養で磨きがかかるため、立派なヴィルトォーゾが出来上がる。どっちが良いかという話ではない。しかし、ゴドゥマールほどの腕前のハーピストがソロ演奏というよりも、むしろ積極的にオーケストラへの参加、協奏曲でのコンサート、ミニマムでもデュオなどでのステージ構成を優先させているようにみえることが、意識的に自己修養しているのではないかという冒頭の推論になったわけである。これは、ソロを極めるのとは対極で、音楽を極める中でハープの居場所を確保しているような行動に映る。何しろ彼女は、ここ2-3年でざっと50以上の交響楽団や音楽祭などに出演しているのだ。これだけ客演が多いという事実は、冷静に考えると凄い数字なのである。加えて、レコーディングやクリニックもあるのだろうから、彼女は単に表層的に名前がフィーチャーされてこなかっただけで、とてつもない人気の引っ張りだこであったわけだ。

すると、余計にソロ・パフォーマンスの貴重さが俄然クローズアップされてくる。選曲もさすがと言わざるを得ないもので、ここ10年の間にハーピストたちとの間でもソロ曲として徐々に採用されることが多くなってきた作曲家の曲ばかりなのである。ヒンデミット、フォーレ、ルニエ、スカルラッティ、そしてエルサン。選りすぐりという表現がまさにぴったりである。どの曲も研ぎ澄まされ、改めて深みと凄みを感じてしまった。いま貯めに貯めているゴドゥマールの知見は、まさにマグマのようにいつでも噴火可能であり、今後ますます注目せざるを得ない。

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