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名盤リワインド㉛ 泉、夜の歌~珠玉のハープ名曲集/マリサ・ロブレス

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ハーピストには、色々なタイプがいる。ハープというアコースティックな楽器ゆえに、生音を通じてその奏者の個性が出る点は、他の楽器同様、その人の癖であったり、奏法の違いであったり、あるいは即興などによっても違いは千差万別だ。音色という点において、実に印象的だと思うのが、自分の場合は、マリサ・ロブレスである。

ロブレスは、あのサバレタが兄弟子であり、スペインが生んだ早熟の天才だ。16歳にしてマドリード音楽院を卒業、翌年にまるでラスキーヌの成功譚をなぞるが如くに、あのジャン=ピエール・ランパルと吹き込んだ「フルートとハープのための協奏曲」で一気にトップへ躍り出た。その後結婚を期にイギリスへ移住して、以降はイギリスに永住して、英国王立音楽院でも教鞭を執っていた。天才というとまず技巧と結びつくが、彼女の場合、その音色の説得力にあるとみている。一音一音が重いのである。上滑りしない技巧はもちろん、まるで老婆に物語を説かれているような音の重厚かつウォームな印象は、協奏曲やオーケストラとの共演でも存在感を発揮するし、ソロなら尚更ずっしり来る。弦が指に掛かっている時間が若干長いというか、独特なタメがある音が、確実にハートに届くハーピストである。だから、ロドリーゴの「アランフェス協奏曲」などでソロをとると、右に出る者はいないくらいのラスボス感を醸し出す。

兄弟子のサバレタがそうであったように、これからどれだけ演奏を録音してくれるかと思いしや、ロブレスはその華々しいデビューの割には、結婚を機に割と公への露出やレコード収録などは控え目だったように思える。そこで、本作をよく聴くようになった。協奏曲やソロなどが、とてもコンパクトにまとめて収録してあるから。何せ原題は、“ハープの芸術”である。特に、「ブラームスの子守歌」「雨だれ」「泉」あたりは、その曲のハープ・バージョンの中では白眉のテイクではないだろうか。曲の魂を、技術だけに頼らず、その本質を伝えようとする姿勢が垣間見れる。歴史にもしもは禁句だが、彼女が長く故郷スペインに留まって、その音楽観と技法を後進に伝えていっていたら、スペインはきっとフランスに継ぐ王国を築いていたはずだ。

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