ハープ・リサイタル 2021 -フランス近代におけるハープ音楽の精華- / 千田悦子
実にタイムリーな状況下でリリースされたアルバムである。時はコロナ禍、演奏の場は削られ、人と人との交流も少なくなり、ハープどころか音楽の力そのものを信じる気力さえ奪われていくような焦燥感の中に、きっと誰もが陥ったと思う。そんななか、その実力を高く評価されながら、こうしたCDリリースという形では世に問うてこなかった千田悦子が、待望のアルバムを制作した。しかも、ライヴ・アルバムという形で。
現状では、国内で今年制作されたハープ作品の中で、間違いなくトップを争うアルバムと言えるだろう。大胆さが際立つ。何しろライヴ盤である。補正ややり直しが原則許されないフォーマットで、しかもお手盛りの選曲ではなく、フランス近代の中でも頻繁にはレパートリーにしないような「ル二エ:バラード第2番」から始まる冒頭のソロ・ピースが、ラ・プレル、ピエルネ作品まで連続する。千田の強烈な磁場に引き寄せられるように、その世界観に耽溺してしまう。取り分け個人的には、ピエルネの「即興風奇想曲作品9」の変化に富んだ6分ちょっとの時空に、すっかり圧倒された。まるで、彼女が今まで溜め込んできた心象風景が一気に吐き出されたかのような感慨を覚えた。これぞハープ曲!ここまでは、千田というハーピストの技量と矜持を思い知るには、十分すぎるほどの流れだ。
後半は、加藤えりな(ヴァイオリン)と渡邊方子(チェロ)を迎えた弦楽奏だが、ここでは一転、共演者と音楽を分かち合う悦びと厳しさの両方を発散している。協調と琢磨。音楽が弾け、迸る情景が浮かび上がる。2つの楽器の中でハープが果たして埋没しないかと耳を澄ませると、そこには躍動する千田の存在感たっぷりのハープの響きがあった。
知る人ぞ知る存在からトップ・グループへ。このアルバムは、「やっぱりハープって凄いや」と思わせる演奏と、録音状態の良さから半端ない臨場感と共感を覚える演奏の交歓とが詰まっている。副題に、“フランス近代~精華”とあるが、むしろ精華とは千田自身の音楽家としての精華の記録なのだ。<CDの詳細・お求めはコチラ>